戯言スクラップブック

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梯 久美子 「狂う人」

島尾敏雄の「死の棘」を初めて読んだのはいつだろうと思い返してみると二十歳くらいだったと思う。二十歳の自分があの夫婦の息の詰まるような話を読んで理解できたとは思えないけれどインパクトを与えられたさくひんだった。だからこの「狂う人」が出版されることを知ってどうしても読みたくなった。
 そしてこれを読み前に「死の棘」をそれこそ久方ぶりに読んでみることにした。読み始めて最初はやはりあの息の詰まるような感覚が蘇ってきたけれど若いころには感じなかった外側からの気持ちと言うか、夫である島尾敏雄だけではなくて作家である島尾敏雄が見えてきた。鬼気迫る圧迫感がありつつも二人のやり取り外側から見ると滑稽さを感じたり、ミホの時々見せる可愛らしさや子供たちの健気さや、そういう物現実におこった出来事でありながら綴られる言葉でやはり島尾敏雄が作り上げた作品なのだろう。
 「狂う人」はその「死の棘」で書かれる側であったミホをミホ側から描いた作品だ。取材や資料から緻密にミホその人を描き出していく力作でより深く彼女の事を知ることが出来た。そしてもともと他人である夫婦とはなんなのか、ずっと一緒にいるということは、お互いをお互いでがんじがらめに縛りあう関係とはなんなのかと思ってしまう。こんなに深くお互いの事を考える日々。とてもこんな濃厚な関係は築けないなあ。
 普通の夫婦と違うのはやはり二人が書く人と言うことだ。もしも敏雄が作家でなかったら。
 まだまだ考えることはありそうだけど年末年始「死の棘」「狂う人」と読んでどっぷりと島尾夫妻の世界に浸っていたので少しはなれてホッとしたい。

狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ

狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ