堀江敏幸「回送列車」
回送列車とは、私達の眼前にまぎれもなく存在しつつ、同時に現実と非現実のはざまをすり抜けてしまう不可視の列車なのである。
回送列車と言う言葉で自分が思う浮かべるのは踏み切りがあくのをまっている時に通る回送列車じゃなくて夜ホームで電車を待っているときに通り過ぎていく回送列車だったりする。 それは他の列車が明かりが灯っているのに比べて真っ暗だったりするのでちょっと気持ちが不思議にひやっとさせられたりする。
堀江さんの本を読んでいるのに「やばいなあ〜!」とか「たまらんっ!」とか絶対堀江さんに似つかわしくない言葉を頭の中で叫んだりする。そのくらいの興奮状態でページをめくる。ページの端を折ったり、文章の横に線をひいたり・・・・・。そんな興奮状態でありながら豊かなやすらぎみたいなものに包まれる。どうしてこんなに素敵なんだろうと思ってしまう。
早速ゴルゴ13の話が出てきて笑ってしまった(先日友達に借りて読んだばかりだったから)それから、ヘッセの話が出てくれば本棚にある昔のヘッセ特集のユリイカをさがし、「かばくん」が出てくれば下段の絵本がしまってある棚をさがし、スナフキンが出てくればムーミン辞典をパラパラし、「みみをすます」が出てくればこの本があったかどうだかさがしてみる(どうやら持ってないみたい)そして「クレーン男」の話が出てきたのでたしかあったはず!とさがしたら家にあったのは福音館のものでただ「クレーン」とかかれてあった。こんなふうに何回も本棚を行き来する楽しみも味わい、まだ見ぬ本も読んでみたいなと思わせてくれた。
脈絡なく手に取ってきた書物と書物のあいだに思いがけない橋が架かってそれがまたべつの橋につながり、やがてひとつの大きな網状の交通路ができあがる。その節目をなす架橋の瞬間は鮮明な身体感覚として蓄積され、橋の数に比例して読書の快楽も増していくのではあるまいか。
なにげなく日常で手にとってパラパラとページをめくりまた興奮したり言葉をゆっくりあじわったりしよう。
- 作者: 堀江敏幸
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/06/01
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 17回
- この商品を含むブログ (47件) を見る