デイーリア・オーエンズ 「ザリガニの鳴くところ」
Twitterのタイムラインなどてちょこちょこ眼にしていた小説。図書館で借りて読みました。確かTwitter文学賞の後継賞、みんなのつぶやき文学賞の海外篇1位にも選ばれていました。
そこそこ分厚さのある本だっけれどとても読みやすく途中で止まることなく読み終えた。
ノースカロライナ州の湿地に住む女性の幼い頃からの生涯が綴られている。貧しい家族は1人、また1人と彼女の元を去っていく。最後に残った、家族がバラバラになった原因を作った父親でさえ彼女の元からいなくなってしまう。
この物語でまず描かれるのは幼児虐待であったり育児放棄であったり。幼い彼女が残されていく過程が読んでいてつらい。本当に健気でアルコール中毒で暴力的な父親との束の間の幸せな時間が悲しい。
その後も去ってしまった母親が夫から受けたDVであったり、街の人々の偏見であったり差別であったり、見て見ぬ振りであったり、彼女にとって過酷な時間が過ぎていく。
商店の黒人夫婦、初恋の相手となるテイトなど彼女に寄り添う人もいるけれど彼女の孤独が深く深く描かれる。
思春期を迎えてテイトとの初恋のシーンはとても美しい。
その瞬間、一陣の風がどっと吹き、おびただしい数の黄色いプラタナスの葉が命の支えを断ち切って空に流れ出た。秋の葉は落ちるのではない。飛び立つのだ。飛翔できる一度きりのそのチャンスに、彼らは与えられた時間を精一杯使って空をさまよう。日の光を照り返して輝きながら、風の流れに乗ってくるくると舞い、滑り、翻る。
p174
この物語は湿地で見つかった一人の青年の遺体に関する部分とと主人公「湿地の少女」カイアの成長していく時間とが交互に語られる。やがてカイアが成長して青年、チェイスと時間が合わさる時が来る。
印象的だったのは湿地の自然と海辺の生き物、そして昆虫たち。小説の作者が動物学者と言うだけあってとても豊かに描かれている。それがチェイスの死亡に関わるふせんとなったりもする。
物語はミステリーでもあり、恋愛物語でもあり、彼女の生涯の物語でもある。
彼女感じる生と、性の目覚めが描かれた部分も印象的(波との、海との戯れ)
そして物語にはたくさんの詩が出てくるがこれもこの物語の終焉への一つのモチーフだろう。
これ映画にするととても面白いだろうなあ、などと思っていたらもうすでに映画化の話が出ているみたいですね。湿地地帯が美しく描かれているといいなあ。
*本棚
ディーリア・オーエンズ「ザリガニの鳴くところ」