朝吹真理子「きことわ」

はじめての朝吹作品。単行本ではなく文芸春秋芥川賞掲載号で読む。そう言えば前にライブハウスで知り合いの人が流跡を読んでいてその作品が堀江さんが選考したドゥマゴ文学賞を受賞したことを知って気になっていたのだった。

今、読み終わった後もずっと心地のよい淡い空気の中にいるような気がする。夢と時間と思い出が交差する世界。
読んでいる家にすっかり気持ちよくなってしまい自分でも湿った息を感じたり、薄荷や日焼け止めの香りに包まれながら気持ちよくふかふかのベッドの中で眠ってしまう。この惑わされてしまうような雰囲気はなんだろう…。

最初読み始めた時に何故か片岡義男を読んでるような気分になった。こんなことを思った人ってはたしているかな?天候の書かれ方や細かく描かれる身体の感覚なんかがそう思わせたのだと思う。

次に思い出したのはやはり堀江敏幸の文章だったりした。
でも読み進むうちにおふたりにはない幻想的な部分が出てきた。それは何度も洗濯物を取り入れるシーンだったり、後ろ髪を引かれるシーンだったりする。ちょっぴり恐ろしい。
ふたりがどこかの部分で繋がっていてとか、存在できなかった妹の存在とか早くになくなった貴子の母親とか色んなふうに読んでいるものが意味を見つけて読むこともできるだろう。けれど何故かそれはしたくない小説だった。ただひたすらこのあわあわの時間の中でまどろんでいたい。

きことわ

きことわ