内堀弘「ボン書店の幻」

モダニズムとかシュルレアリスムとか随分前の戦争よりも前の時代のことなのに何故だか新しい!という印象を抱かせるのは何故だろう?

 ボン書店もその発行人である鳥羽茂の事も今回この文庫本をよんで初めて知る。たったひとりで活字を組み、自分で印刷もして好きな詩集を作っていたボン書店という出版社、そして鳥羽茂。そんな彼の奇跡を追いかけていく本。

 なぜ書物というものは著者だけの遺産としてしか残されないのだろう。幻の出版社といえば聞こえはいいが、実は本を作った人間のことなどこの国の「文学史」は端から覚えていないのではないか。

 モダニズムの時代に風花のように舞って消えていったこんな小さな出版社の物語を掘り出してみたい、というのが本書の筋書きである。だからこれは著者(作家)の側の記録ではない。書物(出版)に短い生涯を費やし、そして忘れられていった人物、この誰なんだか分からない普通のおじさん(お兄さんかもしれないが)を探しに行こうというのである。書物の舞台裏にも物語りはあるはずだ。

作者である内堀弘さんのこの思いがこの本を作り上げ、鳥羽茂という人の生きた姿をあぶりだしてくれたのだと思う。
 だけどとても静かに淡々と読んだ。その静けさが心地よかった。長髪のモダンな青年の鳥羽茂や雑司ヶ谷鬼子母神ケヤキ並木などを思い浮かべながら。
 そしてこの本が書かれたその後のことが綴られている「文庫版のための少し長いあとがき」が良かった。この「ボン書店の幻」という本が出なかったら出会えなかったことだろう・・・・。まるでなにかひとつに繋がるような・・・。最後を過ごした土地の風景が切なくもあり温かくもあり胸に迫ってくる。


ボン書店の幻―モダニズム出版社の光と影 (ちくま文庫)

ボン書店の幻―モダニズム出版社の光と影 (ちくま文庫)